なぜそうなるか
買取店で身分証を求められるのはなぜ?——古物営業法は、買い取る側に「売る人の住所・氏名・職業・年齢」の確認を課していました
使わなくなった腕時計やゲーム機を買取店へ持っていくと、査定の前後で「身分証をお願いします」と声をかけられます。
財布から運転免許証を出しながら、少しだけ引っかかる人もいるはずです。物を売るだけなのに、なぜ住所まで見せる必要があるのか、と。
店によっては、名前や住所を用紙に書き込むよう頼まれることもあります。ネットの宅配買取なら、書類の画像を送る手順が入ってきます。
この手間は、店ごとの方針で決まっているわけではありません。古物、つまり一度使われた品物を買い取る商売そのものに、法律が決まりを置いているのです。
同じ法律は、買取店がそもそも誰の許可で営業しているのか、その許可を店のどこに示すのか、という点にも決まりを置きました。売る側からは見えにくい部分です。
そこで、e-Gov 法令検索で古物営業法の条文を読み、警視庁の古物営業の案内ページを並べました。特定の店を選ぶための記事ではなく、買取の価格も扱いません。
・買取店(古物商)は、品物を買い受けるとき、売る人の住所・氏名・職業・年齢を確認する義務を負う
・総額1万円未満の買受では確認が原則免除されるが、バイクやゲームソフトなどは金額にかかわらず対象になる
・古物商の営業には、都道府県公安委員会の許可が要る
・営業所には、許可証の番号を書いた紺色地に白文字の標識を掲げる決まりがある
・ホームページに公安委員会名・許可証番号・氏名または名称を載せる決まりもある(小規模事業者などの除外あり)
身分証を見せるのは、店のための手続きなの?
売るのはこちらなのに、どうして身元を確かめられるの?
古物営業法の第15条は「確認等及び申告」という見出しの条文です。古物商は古物を買い受けようとするとき、相手方の真偽を確認するため、住所・氏名・職業・年齢を確認するなどの措置をとらなければならない、という定めです。
警視庁の「古物商許可申請をされる方へ」は、これから許可を取る人に向けて、この義務を次のように書いていました。
括弧の中の「あなたに古物を売る人」が、店に品物を持ち込む私たちの側です。身分証の提示は、店の都合というより、買い取る側に法律が課した確認の義務にあたります。古物商は、古物を買い受ける際、取引の相手方(あなたに古物を売る人)の住所、氏名、職業、年齢を確認しなければなりません。
同じ第15条の3項には、不正品の疑いがあると認めるときは直ちに警察官に申告しなければならない、という決まりも並んでいます。確認と申告は、同じ条文の中に並んでいます。
ネットの宅配買取では、どう確かめるの?
顔を合わせない取引でも、確認の義務は外れません。非対面の取引について、警視庁の同じページに注意書きがありました。
単に「運転免許証のコピーの送付を受ける。」等の方法では不十分であり、古物営業法で定める確認を行ったことにはなりません。
非対面では、法令で定められた「非対面取引における相手方の確認方法」をとる必要がある、とも書かれていました。具体的な方法は、警視庁の「非対面取引における確認の方法」のページに別にまとめられていました。
1万円未満なら、身分証はいらないの?
少額の買取なら、名前を書かなくてもいい?
第15条の2項は、対価の総額が国家公安委員会規則で定める金額未満の取引では確認を要しない、とする規定です。ただし、特に確認が必要な古物として規則で定めるものは除く、という但し書き付きです。
その中身を、警視庁の「古物営業法施行規則の一部改正について」が説明していました。
令和7年10月1日の改正では、エアコンの室外機、電気温水機器のヒートポンプ、電線、金属製のグレーチングがこの一部物品に加わりました。同じページは、LANケーブルや家庭用の延長コード、充電ケーブルなどは電線の対象外だという断りもありました。古物商は、買い受ける物品の総額が1万円未満の場合、相手方の確認義務及び帳簿等への記載等義務(以下「相手方の確認義務等」といいます。)が原則免除されており、一部物品(バイク、ゲームソフト等)についてのみ、総額1万円未満の買受であっても、相手方の確認義務等の対象となっています。
少額の取引で身分証を求められたとき、その品目がこの一覧に入るかどうかは、この記事では判断していません。
買取店の許可は、誰が出しているの?
「古物商」の許可って、どこがくれるもの?
第3条は、古物営業を営もうとする者は都道府県公安委員会の許可を受けなければならない、と定めます。申請の窓口は警察で、警視庁の「古物商許可申請」のページでは、申請場所が「主たる営業所の所在地を管轄する警察署(防犯係)」とされていました。
許可を受けずに営業した者への罰則は、第31条にあります。3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が上限として定められており、許可は名目だけの手続きではない、という位置づけです。身分証を求めるのは、貴金属の店だけ厳しいの?
警察庁の「古物営業・質屋営業について」は、貴金属を扱う古物商について、別の法律の義務にも触れていました。
古物である貴金属等の売買の業務を行う古物商(特定古物商)及び流質物である貴金属等の売却の業務を行う質屋(特定質屋)は、特定事業者として、本人特定事項の確認義務、疑わしい取引の届出義務等が課せられます。
根拠として挙げられているのは、犯罪による収益の移転防止に関する法律の第2条第2項です。貴金属を扱う古物商には、古物営業法とは別の法律の確認義務も掛かっている、という説明です。
店のどこを見れば、許可が分かるの?
店に入ったとき、許可を持つ店かどうかは見分けられる?
第12条の1項が「標識の掲示等」の決まりです。その様式は施行規則で定められ、警視庁の「標識の様式」のページに備考が載っていました。
色は、紺色地に白文字。
大きさは縦8センチメートル、横16センチメートルと決まっています。標識の上部には「○○○商」と、主に扱う古物の区分が入ります。時計・宝飾品類なら「時計・宝飾品」、金券類なら「チケット」のように、区分ごとの書き方も備考に並んでいました。番号は、許可証の番号。
レジのそばや入口の壁に、紺色の小さな板がないかを見てみると、許可証の番号と、店を営む者の氏名または名称が読み取れます。
ホームページには、何が載っているの?
令和6年4月1日に施行された改正で、ウェブサイトへの掲載も義務になりました。警視庁の「古物営業法の一部改正について」は、載せる事項を氏名または名称、許可をした公安委員会の名称、許可証の番号の3つです。
ただし、除外もあります。常時使用する従業員が5人以下か、管理するウェブサイトを持っていない場合について、同じページはこう書いていました。
のいずれかに該当する場合には、除外規定として氏名等掲載義務が免除されます。(古物営業法施行規則第13条の2)
一方で、インターネットで取引を行う特定古物商は、この除外にかかわらず掲載が必要です。「古物商許可申請をされる方へ」も、許可を受けていることを取引の相手方に明らかにするための表示だと説明していました。
古物商は、許可を受けていることを取引の相手方に明らかにするため、ホームページ上で、「許可を受けた公安委員会名」、「許可証番号」、「氏名又は名称」を表示しなければなりません。
宅配買取の店なら、申込みの前にサイトの下のほうや会社概要のページを開くと、この3つが載っているかを見ておけます。
この記事で確認したこと
・古物商は、買い受けるとき売る人の住所・氏名・職業・年齢を確認する義務を負う(第15条)
・非対面の取引では、免許証のコピーの送付だけでは確認として足りない(警視庁)
・総額1万円未満は原則免除だが、バイク・ゲームソフト・室外機・電線などは対象
・営業には都道府県公安委員会の許可が要り、無許可営業には罰則がある(第3条・第31条)
・営業所には紺色地に白文字の標識、ウェブサイトには公安委員会名・許可証番号・氏名等を載せる
身分証を求められることは、その店が法律の決まりに沿って確認をしているしるしでもあります。売る前に、店の標識かサイトの表示で許可証の番号を一度見ておくと、相手の顔が少しはっきりします。
よくある質問
身分証を出さずに売ることはできますか
古物営業法第15条は、確認の措置をとる義務を古物商の側に課しています。総額1万円未満で対象品目に当たらない取引などの例外はありますが、個々の取引がどれに当たるかは、この記事では判断していません。店に理由を尋ねるのが確実です。
標識やサイトの許可証番号が見当たらない店は、許可がないということですか
標識の掲示は第12条1項の義務ですが、ウェブサイトへの掲載には小規模事業者などの除外があります。表示が見つからないことだけで、許可の有無は判断できません。気になる場合は、店に許可証番号と許可をした公安委員会名を尋ねてください。
許可の申請にはどんな書類が要りますか
警視庁の「古物商許可申請」のページは、個人の場合、略歴書・住民票の写し・誓約書・身分証明書などを挙げ、手数料を19,000円としています。この記事は売る側から見た整理なので、申請の詳細は管轄の警察署の案内をご覧ください。
この整理が変わる条件
- 古物営業法や施行規則で、確認の義務・免除の金額・対象品目・表示の決まりが改められた場合
- 警視庁が古物営業の案内ページを改めた場合
- 警察庁が特定古物商の義務についての案内を改めた場合
出典
- e-Gov 法令検索「古物営業法」(第3条・第12条・第15条・第31条) https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000108
- 警視庁「古物商許可申請をされる方へ」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/kaisetsu/kobutsu_shinsei.html
- 警視庁「非対面取引における確認の方法」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/kaisetsu/hitaimen.html
- 警視庁「古物営業法施行規則の一部改正について(令和7年10月1日施行)」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/kaisetsu/kobutsu_sekoukisoku.html
- 警視庁「古物営業法の一部改正について(令和6年4月1日施行)」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/kaisetsu/kobutu_eigyo_r6.html
- 警視庁「標識の様式」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/youshiki/hyoshiki.html
- 警視庁「古物商許可申請」 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/kobutsu/tetsuzuki/kyoka.html
- 警察庁「古物営業・質屋営業について」 https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/kobutsu/index.html
売る前に、店の標識かサイトで許可証の番号と許可をした公安委員会名を確かめ、確認の求めに迷ったら店に理由を尋ねてください。
当方が上の出典を引いて確かめた日: